東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)173号 判決 1975年3月25日
原告
株式会社毎日放送
右代表者
高橋信三
右訴訟代理人
松本正一
外二名
被告
中央労働委員会
右代表者
平田冨太郎
右訴訟代理人
日沖憲郎
右指定代理人
岩崎博司
外二名
参加人
毎日放送労働組合
右代表者
石浜俊造
外四名
右参加人五名訴訟代人
西村昭
外五名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一、原告
1 被告が、再審査申立人原告、再審査被申立人参加人毎日放送労働組合間の中労委昭和四三年(不再)第六号事件について、昭和四四年七月二日付でなした再審査申立棄却の命令を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨。
第二 当事者の主張
一、原告
1 請求の原因
(一) 当事者等
原告、参加人毎日放送労働組合(以下「参加人組合」という。)の組織、人員構成等、および、その余の参加人らの組合経歴等は、別紙命令書(以下「命令書」という。)理由第1の1記載のとおりである。但し、参加人船尾弘、同八木敏晃は、いずれも昭和四三年八月副執行委員長を辞任し、それ以降執行委員となつている。
(二) 本件命令
参加人組合は、昭和四〇年九月二日大阪府地方労働委員会(以下「地労委」という。)に対し、原告を被申立人として、不当労働行為救済の申立てをした。これに対し、同委員会は、昭和四二年一二月二七日付で、被申立人原告は、昭和四〇年八月一〇日付参加人石浜俊造、同宇崎宏に対する懲戒解雇および参加人八木敏晃、同船尾弘に対する諭旨解雇を取消し、原職に復帰させるとともに、解雇の日から原職に復帰するまでの間、同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない旨の命令(以下「初審命令」という。)を発した。
原告は、右初審命令を不服として、被告に対し再審査の申立てをしたが、被告は、昭和四四年七月二日付で命令書主文に記載のとおり、右再審査の申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発した。この命令書写は、同月二五日原告に交付された。<以下省略>
理由
一請求の原因第一、二項の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二昭和四〇年春季闘争に至る迄の労使関係
1 命令書理由第1の2の(1)記載の事実について
(一) 次の事実は当事者間に争いがない。
参加人組合が結成されて以後昭和三四年ごろまでは、労使間に余り紛争対立はみられなかつた。昭和三五年四月参加人組合の役員改選により海野光男が執行委員長に選任されたが、その後の参加人組合の活動としては、メーデー初参加、街頭における安保反対の署名運動、傭員(命令書には雇員と記載されているが、<証拠>によれば、正確には原告会社が主張する如く、傭員であつて、その地位は日給制の臨時雇であり、参加人組合も海野光男が執行委員長に選任されるまでは右の者らの組合加入要求に対しては雇用形態の相異を理由にこれを認めなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。)の組合員化などがあり、また、原告会社幹部との定期的会食の慣行も中止された。昭和三六年春季闘争においては、六、〇〇〇円の賃金引上げを獲得し、同年年末の一時金闘争において初めてストライキ権を確立し、昭和三七年の春季闘争においては、七三時間に及ぶストライキが行なわれ、その際、参加人組合のピケッテイングによつて管理職員が三日間テレシネ室に閉じ込められた。
(二) 弁論の全趣旨および<証拠>によれば、参加人組合は、昭和二七年二月新日本放送労働組合として結成され、昭和三三年六月原告会社の社名の変更(株式会社毎日放送と改称)とともに毎日放送労働組合と改称されたことが認められ、これに反する証拠はない。
<証拠>によれば、昭和三五年四月、海野光男が参加人組合の執行委員長に選任されると、同人は、参加人組合の民主的運営をめざし、従来の執行部中心の運営(前執行委員長太田孝は主に執行委員会において組合運営を決定していた。)を改め、全組合員参加の下に徹底した職場討議を経て組合の要求作りをし、前述したメーデー初参加等の活動および新聞労連等他産業労働者との交流を図る等活発な組合活動を展開するようになつたこと、そして、前述した原告会社幹部との定期的会食の中止もいわゆる労使協調ムードを嫌悪したことによるものであつたことが認められる。<証拠判断省略>
ところで、原告会社は、昭和三七年の春季闘争の際参加人組合のピケッテイングによつてテレシネ室、主調整室等に閉じ込められた管理職員は、被告認定の如く数名ではなく、総計三八名であつた旨主張するので検討するに、<証拠>によれば、前記テレシネ室に閉じ込められた管理職員は約二三名(但し、テレシネ室のみならずテレビ試聴室を含む。)であることが認められ、<証拠判断省略>。また、<証拠>によれば、その際警察官の導入をみるに至つたことが認められ、<証拠判断省略>
2 同(2)記載の事実について
(一) 原告会社が昭和三六年八月一九日参加人組合に対し、課長に人事権を付与したことを理由に課長全員は自動的に非組合員になると考える旨を通告し、同年九月、従来八、〇〇〇円であつた課長手当を二万円に増額したこと、そして原告会社が、課長二四名が参加人組合を脱退した旨の届出が提出されたことを理由に右課長らについてチェックオフを中止したことは、当事者間に争いがない。
(二) 原告会社が、昭和三七年春季闘争直前専門職制の導入を理由に組合員二〇名を課長に昇格させたため、参加人組合が規約を改正して課長以上を非組合員としたことは、当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、原告会社は、昭和三七年春季闘争に際し、参加人組合が二四時間ストライキを実施中であることを理由に参加人組合の申入れた団体交渉を拒否したことが認められる。<証拠判断省略>
(三) <証拠>によれば、原告会社が、昭和三八年春季闘争直前にいわゆるカッコ課長(課長待遇者)を新設し(現場関係とアナウンサーの人達のうち組合員であつた者七名が課長に昇格した。)課長手当として一万七、〇〇〇円支給したこと、原告会社が、右の課長については非組合員にすべきである、との見解を述べ、これに対し参加人組合が、右の課長については組合員資格を有するとの見解の下に組合員として取扱う旨代議員会において決定し、組合員資格の問題をめぐつて両者の間で対立が生じたのであるが、その後右の課長全員は参加人組合を脱退するに至り、参加人組合は、組合大会においてこれを承認したこと、これにより、従来一〇〇名ほどであつた管理職員数は一五八名となり、全従業員中二〇%強を占めるに至つたこと(但し、この点は当事者間に争いがない。)が認められ、<証拠判断省略>
原告会社は、右の如き管理職員の増加は、放送業務に特殊な業務上の必要性や原告会社に固有な必然性によるものであつて、組合対策を目的としたものではない旨主張するので、この点について検討する。
<証拠>を総合すると、原告会社においては、昭和三六年八月千里丘スタジオの完成により従業員数が増大し、管理機構の整備に伴ない管理職員数が飛躍的に増加したこと、しかし、その後従業員数にはさしたる増加がないにもかかわらず管理職員のみが増加し続け、昭和三八年春季闘争直前は、前記認定のとおり、全従業員中に占める管理職員の割合は二〇%強となるに至つたこと、そして、右管理職員は参加人組合のストライキに際し常に代置就労することのできる態勢にあり、右ストライキの都度管理職員のみによつて放送が行なわれてきたこと、それにより参加人組合のストライキの効果が減殺されたことが認められる。<証拠判断省略>。また、昭和三八年春季闘争直前の管理職員増加の理由については、<証拠>において、佐々木文平は、それぞれの知識に堪能な人を管理職とする必要があり、また、放送業務の特殊性から管理統括機構の必要性によるものである旨供述するが、右の供述をもつてしても何故同年度の春季闘争直前に多数の管理職員を増加しなければならなかつたかの理由を首肯し難く、他に右増員の理由を肯認するに足りる証拠はない。以上の諸点を考慮すれば、原告会社の昭和三六年度の管理職員の増加は理解し得るとしても、それ以降の増加は組合対策のためになされた節が多分に存するといわざるを得ない。
原告会社のこの点に関する主張は容れることができない。
(四) 原告会社は、昭和三八年春季闘争に際して、参加人組合主催の映写会、フォークダンス等のための原告会社の施設利用を禁止したこと、同年七月、原告会社は、五名を大阪本社から東京支社または名古屋支局等に配置転換し、人事権は団体交渉の対象にならないと主張して、右の配置転換に関する参加人組合との団体交渉を拒否したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、同年春季闘争に際して、組合員の鉢巻着用を理由に団体交渉を拒否したことが認められ、<証拠判断省略>また、<証拠>によれば、前記の配置転換された者のうち、二名は参加人組合の執行委員であり、配置転換された者がいずれも参加人組合において活発な組合活動家であつたことが認められる。<証拠判断省略>。
(五) 原告会社が昭和三八年九月、参加人組合の大会、代議員会、職場集会以外の原告会社の施設利用を禁止したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告会社は、その後は参加人組合の大会のための原告会社の施設利用も禁止したことが認められ、これに反する証拠はない。また、<証拠>によれば、その頃、庶務部副部長であつた太田孝は、当時保安員七名おりその勤務に対する指導・監督、原告会社および庶務部からの指示事項の伝達等をその一職務内容としていたのであるが、庶務部会において、一保安員からの労働争議に関連してなされた質問に対し、保安員は中立であつた方が良い旨の発言をしたこと(但し、この発言をしたことは当事者間に争いがない。)その後の同年一〇月ごろ、右保安員のほとんどが参加人組合から脱退し、結局参加人組合には一、二名が残留しているに過ぎないことが認められる。<証拠判断省略>。
原告会社は、右認定の太田孝の発言は、同人の個人的見解を述べたに過ぎない旨主張し、<証拠>において、太田孝も同趣旨の供述をするのであるが、同人の原告会社内における職務上の地位、保安員の質問は労働争議に関連してなされたものであること、同人の右発言後保安員のほとんどが参加人組合から脱退したこと等の事実に徴すれば、右太田孝の発言は、同人が弁疎する如く単なる一般論ないし個人的意見を述べたに過ぎないということはできず、被告認定のとおり、保安員の組合脱退を示唆したものと認めるのが相当である。
(六) 原告会社が同年一〇月一八日、チェックオフの廃止を参加人組合に通告したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告会社の右チェックオフの廃止通告(同年一一月四日付)は、参加人組合と協議することなくしてなされたものであり、それと同時に、原告会社は参加人組合に対し、勤務時間中における組合費の徴収を禁止する措置に出たことが認められる。<証拠判断省略>。
3 同(3)記載の事実は当事者間に争いがない。
三昭和四〇年春季闘争における参加人組合の要求と同年四月ごろまでの団体交渉の経過
1 命令書理由第1の3の(1)ないし(3)記載の事実は、全部当事者間に争いがない。
2 同(4)記載の事実中、ロックアウトの実施された日時を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、右ロックアウトの実施されたのは、昭和四〇年五月二〇日、午後一時三〇分から同月二五日午前一〇時までの間であることが認められ、これに反する証拠はない。
3 同(5)記載の事実中、原告会社と参加人組合との間に三月三〇日、休日協定について団体交渉の行なわれたこと、および、これの決裂したことは当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、右団体交渉が行なわれる以前の三月中に原告会社と参加人組合間において、休日協定については了解点に達した部分から実施する旨の合意をみていたのに、原告会社が右団体交渉の席上、今後休日協定について一切の争議行為を行なわない、との覚書案を提示し、しかも参加人組合がこれを受諾しなければ了解点に達した部分についても四月一日から実施することを拒否する旨表明したため、右団体交渉が決裂するに至つたことが認められる。<証拠判断省略>。
4 同(6)記載の事実中、原告会社が三月三一日の団体交渉において、賃金に関する新体系として、①カーブ修正、②能力給、③査定累積を内容とする提案を行なつたことは当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、原告会社は、参加人組合が右提案を受諾しなければ賃金回答を出せない旨の主張をしたことが認められ、<証拠判断省略>
5 同(7)記載の事実中、団体交渉の進展しなかつた理由の一つとして社長の出席がなかつた、との点を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
原告会社は、社長の出席がなかつたがために団体交渉の進展がなかつたものではない旨主張するが、<証拠>によれば、原告会社が参加人組合の春季闘争要求に対し、いわゆる一発回答であるとして自己の主張を譲らず、そのため、昭和四〇年四月から五月中旬ごろまでの間両者の団体交渉は全く膠着状態となつていた。そこで、参加人組合としては、右春季闘争の早期解決を図るため、社長の団体交渉への出席を強く要求していたのであるが、原告会社は、参加人組合が原告会社の回答を受諾するか否かだけであるとの態度をとり続け、これが要求を全く無視していたことが認められる。右<証拠判断省略>。
右認定事実、および、後記認定の同年五月二四日、社長と参加人組合三役によるいわゆるトップ会談がもたれて以後、右春季闘争が妥結の方向に進んでいつたこと等の事実に徴すれば、原告会社と参加人組合との団体交渉の進展しなかつた原因は、原告会社が一発回答であるとして自己の主張を固執したところにあつたといわなければならないけれども、参加人組合が両者の膠着状態打開のため社長の団体交渉出席を強く要求していたにもかかわらず原告会社がこれを全く無視する態度をとつたところにもその障害の一端があつたものと認めるのが相当である。
原告会社は、団体交渉に関する権限は社長以外のいわゆるトップグループに委譲されている旨主張するが、仮りにこの点を考慮に入れたとしても右判断を左右するものではない。
次に、原告会社は、一発回答には合理性がある旨主張するが、それは、時と場合によることであつて、<証拠>によれば、昭和四〇年春季闘争においては、参加人組合はこれまでと比較して広範囲の要求をしており、賃金協定に関しても、大幅な賃金引上げを獲得することもさることながら、人事考課(査定)の撤廃を強く要求していたことが認められ、また、後記認定のとおり、右春季闘争が結局ある程度参加人組合の要求を受け入れて妥結しているのであるから、これらの事情を勘案すれば、原告会社が一発回答に固執したことは余りに形式的で硬直的態度であつたといわなければならない。
四参加人石浜らに対する本件解雇理由について
1 毎日マラソン放送中継車に対するピッケッティングについて(解雇理由の1)
(一) 命令書理由第1の4の(1)の①記載の事実は当事者間に争いがない。
(二) 同②記載の事実中、毎日マラソン実況放送の技術関係総合テストを行なうマラソンコースの名称の点を除き、その余の事実は全部当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、本件総合テストは、同日午後一時から実施予定の技術関係の最終テストがあつて、琵琶湖毎日マラソンコース(スタートおよびゴール地点は大津市皇子山競技場、折返し地点は守山市木浜町間42.195キロメートル)において、毎日マラソン実況放送の技術関係最高責任者であつた外村照夫ら約二〇名の技術関係スタッフによつて、右コースの出発点と折返し点、および、右コースを移動しながら放送する一号放送車、二号放送車から番組を送るいわゆる本線のテスト、右各箇所の音波をいつたん比叡山々上の中継基地に集め、ここで音波を調整して千里丘スタジオに送信するテスト、各中継箇所と比叡山々上の中継基地相互間の連絡用無線テスト、エアモニターテスト、連絡用、予備用の中継線のテスト、NHK、日本電信電話公社、原告会社の三社による混信のテストをその内容として予定していたことが認められ、<証拠判断省略>。
(三) 同③記載の事実中、北尾ラジオ局長、真崎報道局長の行動に関する部分を除き、その余の点は、事実の経過としては当事者間に争いがない。
原告会社は、被告認定の事実では、本件ピケッティングが極めて強固であつて、中継車等を放送開始まで長時間に亘り実力で参加人組合の支配下に置いたことが十分に出ていない旨主張するので、以下、前記争いない事実に即しながら右ピケッテイングの態様について検討することとする。
<証拠>によると、次の事実を認めることができる。
太田庶務副部長は、五月六日午後二時ごろ、尾崎CM副部長と共に本件ピケッテイングの状況視察とその解除のため、右ピケッテイング現場に赴いたところ、笛を合図に四、五〇名の組合員が毎日マラソン放送中継車を取り囲み、スクラムを組みながら口々に「帰れ、帰れ」と連呼し、罵声を浴びせ、そのため、右太田庶務部副部長らは到底ピケッテイング解除の説得をすることのできる状態になかつた。さらに、同日午後四時ごろ、西谷庶務部長が組合員らのピケッテイングの実状確認とその解除の説得のために放送中継車等の置いてある場所に赴いたところ、笛を合図に三、四〇名の組合員らがスクラムを組みながら五台の放送中継車等の周囲を取り囲みピケッテイングを張つた。そこで、右西谷庶務部長が右組合員らに対し、「ピケは説得の範囲をこえてはならない。座り込み、中継車の占拠は違法であるからピケを解くように。」などと二、三分間に亘り説得したけれども、これに対して右組合員らは、「帰れ、帰れ」と連呼して応えるのみで、到底右説得を受け入れる様子になかつた。翌七日午後二時ごろ、西谷庶務部長、太田庶務部副部長、尾崎CM副部長、花本車両課長ら職制一二、三名は、右ピケッテイング解除の説得のため右放送中継車等付近に近付いたところ、参加人宇崎、同八木がピケッテイングの指揮をとり、中継電源車には数名の組合員が乗り込んでいて内側からレバー式の扉を閉じてそれに乗車できないようにした。また、いわゆるFMカーのフロントガラス一面にビラが貼付されており、前方の視界が全くきかない状態になつていた。そこで、右西谷庶務部長は、参加人宇崎、同八木および組合員らに対し、「違法ピケを解くように、威力業務妨害を止めるように。」と繰返し約一〇分間に亘り説得したけれども、これに対し、右組合員ら四、五〇名が中継車等の周囲でスクラムを組んでピケッテイングを張り、「帰れ、帰れ」とシュプレヒコールを繰返して応えるのみであつて、到底右の説得を受け入れる様子になかつた。その際、右太田庶務部副部長らが中継車等を奪取しようとして右ピケ隊の中に割り込み中継車に乗り込もうとしたが、組合員らに阻止され、これを断念せざるを得なかつた。その際、組合員らと右太田庶務部副部長との間に多少押し合いがあつたけれども、それ以上に何らの暴力行為、威迫行為は発生しなかつた。このようなことから、原告会社は、参加人組合に対し、同日午後二時四〇分ごろ、前記(争いない事実)警告書を交付するに至つたものである。その後、さらに、同日午後五時ごろ、西谷庶務部長、太田庶務部副部長ら職制四、五名が右ピケッテイング現場に赴き約五分間説得を続け、翌八日にも右太田庶務部副部長ら職制が二回に亘つて説得したが、組合員らは参加人石浜らを中心にその都度スクラムを組んでピケッテイングを張り、中継車等の返還の要求に応じなかつたものである。このように、参加人組合は、同月六日から九日午後一時までの間右中継放送担当のスタッフに指名ストライキを行なうとともに、各職場ごとに順次ストライキを実施して、ストライキに入つた組合員三、四〇名が昼夜に亘り右放送中継車の周囲に集まり、ピケッテイング態勢に入つていたものである。なお、同月七日以降は右放送中継車等のフロントガラス一面にビラの貼付がされていた。以上のことから、原告会社は、毎日マラソン実況放送に右中継車等を使用することができなかつた。<証拠判断省略>
次に、北尾ラジオ局長、真崎報道局長に関する部分について検討する。
<証拠>によれば、五月七日、右両局長が毎日マラソン実況放送の実施責任者として事態の収拾を図るため、参加人石浜ら組合三役に対し会談の申入れをし、同日両者の会談が行なわれたこと、その席上参加人石浜らは、原告会社が四月七日の回答を最終回答であるとして譲らず、参加人組合の団体交渉申入れに対してもストライキ中であることを理由に拒否されている旨のこれまでの経過説明をしたところ、右両局長は、原告会社と参加人組合の仲介役に立つことを約し、とりあえず参加人組合においてピケッテイングを後退させ、その間原告会社も放送中継車に手を出さないという協定を結ぶことの提案をし、参加人石浜らはこの提案に同意したのであるが、その後右両局長の仲介は原告会社上層部の容れるところとならず、結局参加人組合と原告会社の話し合いの場は途を閉ざされることとなり、前記認定のように、参加人組合のピケッテイングの継続と原告会社職制の単なるピケッティングが違法であるから解除すべき旨の要求に終始することとなつたことが認められる。<証拠判断省略>
(四) 同④記載の事実は全部当事者間に争いがない。
2 「ママの育児日記」について(解雇理由の2)
(一) 命令書理由第1の4の(2)の①の記載の事実は当事者間に争いがない。
(二) 同②記載の事実について
次の事実は当事者間に争いがない。
CスタジオからDスタジオにカメラが移されたので、それを知つた組合員はDスタジオに隣接する大道具室付近で抗議集会を開くこととし、石浜委員長の承認を得て集会を行なつた。ところが大道具室前からDスタジオに通じる扉にカメラケーブルを引込んだため、扉が完全に閉まらず、内側の防音シャッターもこわれて下りなかつた。このような状態のまま午後一時から管理職の手で「ママの育児日記」のなま放送が開始された。ところが、組合員らがDスタジオの扉に接近し携帯拡声器を用いて労働歌やシュプレヒコールを高唱したので、Dスタジオにいた田辺部長は、雑音の混入を防ぐため扉の隙き間にじゆうたんなどを当てたがうまくいかず、反動をつけて扉を閉めきろうとしてこの一方を約九〇度開いた。この時総務局でテレビを見ていた太田庶務部副部長は、放送に労働歌の混入しているのを聞いて大急ぎでDスタジオに向かい、開かれた右入口からスタジオ内に入り、持参したポラロイドカメラで組合員を写し、写つていることを確認した後、それまで開かれていた扉を田辺部長ら四人で反動をつけて閉めた。そこで組合員も労働歌の高唱等を止めて引掲げたのであるが、この間約七分組合員による労働歌が混入したまま近畿一円に放送された。
<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
「ママの育児日記」放送の責任者であつた吉田次長は、高木中闘委員から右放送スタッフに対するストライキ通告を受けた後の一二時一〇分ごろ、田辺部長(制作局技術制作部部長)らと右放送の実施方を協議した結果、同放送中に行なわれる予定になつていた人形劇を中止して管理職のみによつて実施することとなつた。そこで、同次長は、D副調整室において放送準備をしていた佐伯副部長(技術制作部副部長)に対し、大西課長と二人で右副調整の業務をするよう指示した。ところが、前述した如く佐伯副部長はカメラ操作をするスイッチャー卓のボタンを押すことができなかつたので、一時三〇分ごろその旨吉田次長に連絡をした。右連絡を受けた同次長は、CスタジオからカメラをDスタジオに移動して放送することとし、佐伯副部長に音声卓調整の業務に戻るよう指示した。このようにして、佐伯副部長がD副調整室において音声を担当し、CスタジオのカメラをDスタジオに移動し、カメラはCスタジオの副調整室で調整して予定どおり放送を実施することとなつた。ところが、前述したとおり、D副調整室でピケッテイングを張っていた組合員の中から、右状況を察知してこのような不完全な状態での放送に抗議しようとの意見を述べる者が出た。そこで、右ピケッテイグの指揮者であつた高木中闘委員は、早速前述の毎日マラソン放送中継車にピケッテイングを張つていた参加人石浜らのところに赴き、参加人石浜、同八木を含む五、六名の中闘委員と右の対処策を相談した結果、大道具室付近において抗議集会を開き抗議行動として労働歌を歌つたりシュプレヒコール等を行なうということになつた。そこで、参加人八木らが右抗議行動に参加する特定の職場を指定し、その所属組合員は右大道具室付近に参集するよう指令を発した。右指令を受けた右組合員らは、一時二、三分前そこに集合し始め、二、三〇名の組合員が集合し、そこで抗議集会が始まつた。最初のうちは森口中闘委員が携帯拡声器で音頭をとつていたのであるが、右放送が開始されコマーシャルに入ると同時に、前記争いない事実の如く、携帯拡声器を用いて労働歌や「団交開け」とか「社長出てこい」等のシュプレヒコールを高唱したものである。なお、これらの放送への混入時間は午後一時一分三五秒から同八分三〇秒までであつた。
ところで、大道具室からDスタジオに通じる扉には、直径約2.5センチメートルのカメラケーブルを引込み、そのため約一〇センチメートルの間隙ができていたので、その間隙を小さくするため、前述したとおり、田辺部長は、反動をつけて扉を閉めきろうとしてこれを開き、そして、その時太田庶務部副部長が入つてきて写真撮影をしたのであるが、右写真撮影は証拠保全のためにしたものであり、この間は約三分間であつた。なお、放送終了前午後一時一九分一五秒から同時二五分二五秒までの約六分一〇秒間前述したと同様の労働歌等の雑音が放送に混入した。<証拠判断省略>
ところで、原告会社は、田辺部長、太田庶務部副部長の行動は雑音混入の原因とはならなかつた旨主張するので、この点について検討する。
<証拠>によれば、原告会社は、前記雑音混入対策として、午後一時五分二〇秒から同時九分一〇秒までの三分五〇秒間および午後一時二〇分四秒から同時二七分一五秒までの六分三五秒間それぞれバック音楽を入れたのであるが、それにより右雑音の内容は聞取りにくくなつた。ところで、右雑音はそれほど気になるというほどのものではなかつたけれども、前記田辺部長、太田庶務部副部長が扉を開いていた間は雑音も大きくなり、対談内容も少し聞取りにくくなつたことが認められる。<証拠判断省略>
右認定事実および先に認定した事実を総合すれば、放送に雑音の混入した原因は、勿論組合員らが労働歌等を高唱したことにあるけれども、田辺部長が扉を開いたこと、および、太田庶務部副部長が扉を開放したまま証拠保全のため写真撮影していたことにもその原因があつたものと認めるのが相当である。
(三) 同③記載の事実中、佐々木人事部長が参加人組合事務所に電話をした時刻を除き、その余の事実は全部当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、同人は、「ママの育児日記」の放送開始後コマーシャルの終つた直後である午後一時三分ごろ労働歌等の雑音が放送に混入しているのに気付き、参加人組合事務所に電話をし、同事務所にいた参加人宇崎宏に対し、組合として行なつているなら直ちに止めるように、という警告の電話をしたことが認められる。<証拠判断省略>
3 ゴルフ場でのビラ配布について(解雇理由の5)
命令書理由第1の4の(3)の①、②各記載の事実は、全部当事者間に争いがない。
4 予告のないストライキの実施について(解雇理由の8および10)
命令書理由第1の4の(4)の①、②各記載の事実は、全部当事者間に争いがない。
5 錠前取付工事の妨害について(解雇理由の9)
命令書理由第1の(5)の①ないし④各記載の事実は、全部当事者間に争いがない。
6 鉄扉乱打について(解雇理由の6)
(一) 命令書理由第1の4の(6)の①記載の事実は、当事者間に争いがない。
(二) 同②記載の事実中、原告会社が音楽を高音で流したという点、および、宇崎書記長外数名の組合員が総務局入口の鉄扉を乱打した意図を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、原告会社の流した「クワイ河マーチ」とか「ハイハイベビー」等の音楽は、ロビーにおいて集会を開いていた宇崎書記長ら組合員にとつていたたまれない程のものであつたこと、それに憤慨した宇崎書記長外数名の組合員は、原告会社の右措置に抗議し音楽を止めさせるため、約一五分間に亘つて、鉄扉を乱打したことが認められる。<証拠判断省略>。
7 総務局立入りについて(解雇理由の3)
(一) 命令書理由第1の4の(7)の①記載事実中、左記事実は当事者間に争いがない。
参加人組合は、五月二〇日一一時五五分から一三時三〇分まで全面ストライキに入つたのであるが、その直前宇崎書記長がストライキ通告書を持参した。加藤経理部長ら管理職数名は、組合員らの総務局立入り(但し、原告会社は、「立入り」というものではなく、「乱入」と評価すべき旨主張する。)に対し、衝立を立てたり、立ちはだかつたりしてこれを阻止し、退去するよう説得したが、組合員らは、口々に「団交を開け。」と叫んでいた。右組合員らが第一会議室の前で阻止されたため、石浜委員長が携帯マイクで文書を読んでいる時、組合員が総務局に私服警察官のいるのをみて騒ぎ出したため、石浜委員長が直ちに引野総務局長に抗議すると、同局長は、「警察官の出動は要請していない。これから要請する。」といつたが、その直後、制服警察官約二〇名が扉を開けて入つてきたので、組合員は、石浜委員長の指示で室外に出て行つた(但し、原告会社は、牛歩戦術で退室したため最後は警察官と原告会社側の手で押し出した旨主張する。)。原告会社は、同日一〇時ごろ、毎日放送映画株式会社の川口社長から電話で、同社労組員多数が「毎日放送の組合はなつとらん。気合いを入れてやる。」等と口々にいいながら出て行つた、との連絡を受けたので、不測の事態に備えて警察官の出動を要請し、別室に待機させていた。
<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
参加人宇崎が総務局人事部にストライキ通告書を手交して同室を出るや否や、玄関ロビーに面した鉄扉付近において笛が鳴り、それと同時に参加人石浜、同宇崎、同船尾ら数十名が一斉に「役員室へ行こう。」などと叫びながら総務局内に入り、役員室(総務局の奥にあり、役員室に赴くためには総務局室内を通らなければならない。)に向おうとした。これに対し、経理部長加藤正三は、右の笛を聞いてから玄関ホールと総務局との間の扉を閉めようとしたが、押し返されて閉めることができなかつた。参加人石浜らが右の如き行動に出たのは、昭和四〇年春季闘争中に原告会社が参加人組合の争議行為に際して警察官の出動を要請したことがあつたため参加人組合としてはかねがね不満に思つていたところ、たまたま同年五月一五、一六の両日、京都市内において開催された日本民間放送労働組合連合会中央委員会において右のことがとりあげられ、争議に警察を介入させるなとの決議がなされたこともあつて、右の点について原告会社の役員に抗議するとともに、併せて同役員に対して同年春季闘争の早期解決を要請するためであつた。ところが、前記認定のとおり、組合員らは原告会社の職制らにより第一会議室前で阻止されたため、石浜委員長は、止むなく役員に手渡すべく所持していた抗議文を読みあげて目的を果そうと考え、同所において携帯用マイクを使用して抗議文を読み上げるに至つたものである。
<証拠判断省略>。
被告は、参加人組合が「玄関ロビーで抗議集会をしていた」と認定しているが、右事実を認めるに足りる証拠はない。また、原告会社は、組合員らの総務局退去につき、「牛歩戦術で退去したため最後は警察官と原告会社側の手で押し出した」と主張し、<証拠>中には、右組合員らの退去につき、「会社の説得に応じて退去したとは判断しかねる」との部分があるが、それ以上具体的な点について何ら触れておらず、<証拠判断省略>。
(二) 同②、③各記載の事実は全部当事者間に争いがない。
なお、原告会社は、鶏糞一五袋を撤いて撤水したのは争議行為とは関係のない庭園管理上の措置であつて造園業者が行なつたものである旨主張するが、<証拠>によれば、参加人組合は、前記原告会社のロックアウトが実施されるとそれが先制的なロックアウトで不当であるから就労させるよう原告会社に連日要求し、その組合員が交替で社屋前の芝生に待機していたこと、それに対し原告会社が右のように鶏糞を撤き撤水したことが認められ、<証拠判断省略>。
右認定事実によると、原告会社の右措置は、原告会社の弁解するところとは異なり、就労要求をしていた組合員に対する厭がらせのためであつたと認めるのが相当である。
8 ビラ等の貼付について(解雇理由の7)
(一) 命令書理由第1の4の(8)の①記載の事実は当事者間に争いがない。
(二) 同②記載の事実中、参加人組合がビラの貼付につきいかなる考慮を払つたかの点を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、参加人石浜俊造は、組合員全員に対し、当初ビラ等の貼付につき個人の誹謗や中傷に亘る内容のビラは貼付しないこと、貼付方法も傷跡の残らないようにすること等の注意を与えていたこと、そこで、当初セロテープを使用してビラの貼付をしていたが、貼付するとすぐ清掃人がはがしたので、後には糊を使用していたるところに貼付するようになつたこと(但し、この点は当事者間に争いがない。)が認められ、<証拠判断省略>。
9 昭和四〇年七月三〇日以降のストライキ(目的・根拠の不明確なストライキ)について(解雇理由の4)
(一) 命令書理由第1の6の(4)の①記載の事実中、参加人組合が昭和四〇年七月三〇日から八月一三日ごろにかけて、延べ数百名に達する指名、部分および全面の時限ストライキを行なつたことは、当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、参加人組合の右ストライキは、昭和四〇年春季闘争にもとづく処分阻止の要求貫徹および警察の捜査に原告会社が協力したことに対する抗議のために行なつたものであることが認められる。<証拠判断省略>。
(二) 同②記載の事実中、参加人組合から佐々木人事部長に対しストライキの通告をした時刻を除き、その余の事実は全部当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、参加人組合が佐々木人事部長に対し、右ストライキの通告をした時刻は、七月三〇日午後三時五七分であることが認められ、
五昭和四〇年春季闘争の終結
1 命令書理由第1の5の(1)記載の事実は当事者間に争いがない。
2 同(2)記載の事実も当事者間に争いがない。
3 同(3)記載の事実について
五月二八日団体交渉が行なわれ、昭和四〇年春季闘争中始めて社長が出席したこと、その後六回の団体交渉が行なわれたことは当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
原告会社と参加人組合との前記六回に亘る団体交渉において、賃金問題(賃金協定)に関しては、①人事考課(査定)はするが、向こう一年に限り実質的に無査定として全員標準昇給とする。②カーブ修正の結果旧体系の定期昇給額に一律一、八一〇円をプラスした方が有利な者(該当者五〇才以上の者二名)については特別措置を講じて有利な方を保証する。③入社後の学歴取得者に対しては賃金体系の上位ランク移行の際優先的に選考する。④賃金引上げ実施時期は四月一日に遡及する、との四点について合意が成立した。しかしながら、参加人組合の要求していた二号職の撤廃等については原告会社の容れるところとならず、また、賃金引上げ要求額八、〇〇〇円については四、〇七四円で妥結し、これにより昭和四〇年春季闘争は実質的に終了した。<証拠判断省略>。
4 同(4)記載の事実は当事者間に争いがない。
六参加人石浜らに対する懲戒処分
1 命令書理由第1の6の(1)記載の事実は当事者間に争いがない。
2 同(2)記載の事実も当事者間に争いがない。
3 同(3)記載の事実中、原告会社が参加人石浜らに対する本件解雇処分発令伝達の時にも、また、処分通知書中にも解雇理由となつた具体的事実を明示せず、との点を除き、その余の事実は全部当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、原告会社は、前記賞罰委員会の答申どおりの処分を決定し、参加人八木に対する右処分発令伝達時には前述した程度の趣旨説明をなしたのみであつて、それ以上具体的な説明は何らせず、また、参加人石浜らに対する右処分通知書には、処分の種類名の記載があるのみでその処分理由については何ら記載されていないことが認められる。
<証拠判断省略>
七本件解雇処分後の事情
1 命令書理由第1の7の(1)記載の事実は当事者間に争いがない。
2 同(2)記載の事実について
<証拠>によると、原告会社は、参加人石浜らに対する本件解雇後約一ケ月間(九月中旬ごろまで)に亘り、執行委員長石浜俊造名義の団体交渉申入れ等に関する文書については、右参加人らが本件解雇により組合員資格を喪失したことを口実にその受領を一切拒否したこと、また、右参加人らの団体交渉および事務接衝以外の原告会社社屋内の立入り、および、一般外来者も使用している食堂、喫茶室の利用を昭和四三年八月まで禁止していたことが認められる。<証拠判断省略>
八本件解雇事由についての判断
前項までの認定事実に基づき、本件解雇事由について判断する。
1 毎日マラソン放送中継車に対するピケッテイングについて(解雇理由の1)
同盟罷業は、必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するが如き行為は勿論、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは、ピケッテイングの手段方法として許されるものではないといわなければならない(最高裁昭和三三年五月二八日判決、刑集一二巻八号一六九四頁参照)。もつとも、争議の状況、使用者側や説得の相手方の態度等によつては、説得の場を確保するために暴力の行使に至らないかぎりある程度の物理的な力の行使に出ることが必要やむをえない処置として容認される場合があるといわなければならず、説得という以上、それは穏和な平和的なものに限られ、いかなる場合にも一切の有形力の行使が許されないと解することは相当でなく、争議の経過、状況、ピケッテイングの対象と相手方の態度等諸般の事情を総合考慮したうえで説得行為の許される限界を決すべきである。
これを本件について検討するに、参加人組合がした本件ピケッテイングは、毎日マラソン放送中継車の返還を求める職制に対し、右中継車を取組み、スクラムを組んだりシュプレヒュール、罵声を浴びせる等して長時間にわたりその接近を阻止し、さらには右職制が中継車を搬出しようとしてこれに乗り込もうとするのを実力で阻止したものであつて、原告会社が主張するようにピケッテングの持つ説得的要素に欠け、後記認定の事情を勘案してもなおかつ行き過ぎの感を免れず、正当性の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。しかしながら、参加人組合が右の如き行動に出でざるを得なかつたのも、原告会社が四月七日に第一次回答を行なつて以来、右回答はいわゆる一発回答で最終のものであると固執し、あとは参加人組合がこれを受諾するか否かだけであるという頑なな態度に出でて、昭和四〇年春季闘争が長引き、五月に入つてもいまだ妥結の見通しが全くたたなかつたこと、そのうえ原告会社は、管理職員を増員してストライキに対処し得る充分な態勢を整えており、ストライキの効果を多分に減殺していたこと(本件の管理職による就労は、従業員中の非組合員の職場代置と同様な性格を帯びるものと解せられ、スト破りとはその性格を異にするといわなければならない。この点は「ママの育児日記」放送についても同様のことがいえるのであつて、固よりこのこと自体を非難しようとするものではない。)、さらに原告会社は、右ピケッテイングに対処して中部日本放送株式会社からFMカー(放送中継車)を借用して管理職員により毎日マラソン実況放送を行なう準備を整えながら、いたずらに参加人組合の行なつているピケッテイングが違法であるから解除すべき旨のみを強調し、あまつさえ、一部職制は実力をもつてピケ隊の中に割り込み、中継車を奪取しようと試みて組合員をいたずらに刺激するような行動に出で、参加人組合の団体交渉の申入れや一部職制による事態の進展を図るべくなした仲介行為に対し、頑なにピケッテイングを行なつていることのみを理由にこれらが申入れを拒否するなど事態の根本的解決を図る態度に欠けていたこと、その外に右ピケッテイングを行なつている組合員らに何らの暴力行為、脅迫行為がみとめられないこと等の諸点を総合勘案すれば、参加人組合がした本件ピケッテイングには、ストライキの実効性を確保するため無理からぬところもあつたといわなければならない。
2 「ママの育児日記」について
(一) Dスタジオ副調整室におけるピケッテイングについて
原告会社としては、本件ピケッテイングにより、Dスタジオ副調整室における一部調整業務を断念せざるを得なくなり、ひいては、放送を予定していた人形劇を中止せざるを得なくなつたのであるが、もともと本件ピケッテイングは、番組担当の組合員が全員ストライキに突入した場合に右組合員らの担当業務を代替するため予め配置されていた職制に対し、ストライキの実効を確保する目的のために行なわれたものであるから、その目的自体は正当であり、またその態様においても暴力の行使や威迫行為が行なわれなかつたのであるから、いまだピケッテイングの正当性の範囲を逸脱したものということはできない。
原告会社は、本件ピケッテイングは放送を阻止することが目的であつた旨主張するが、右ピケッテイングの態様については前記認定の程度に止まり、暴力の行使や脅迫行為の存しなかつたこと、また、佐伯副部長がD副調整室において音声を担当し不完全ながらも予定どおり放送を実施することができたこと、参加人組合が放送の阻止を目的としたものであるとすれば、電源を切る等の容易かつ確実な他の方法が考えられるのにこのような行為に出ていないこと等からみて、右ピケッテイングの目的は、前述したとおり、ストライキの実効を確保することにあつたというべく、従つて、原告会社のこの点に関する主張は採用しない。
(二) 放送番組に対する雑音混入について
組合員らの本件抗議行動は、その態様からみて単なる説得の範囲内の行動に止まるものということはできず、実力的行動にあたるというべきであり、それは管理職員による放送の遂行を断念させるために行なわれたものであるとはいえ、生放送に騒音を混入させて原告会社の業務執行を妨害するが如き実力行動は行き過ぎであり、正当な争議行為ということはできない。しかし、本件行動の手段・方法としては、Dスタジオ西側出入口扉前における電気メガホンを使用しての労働歌の合唱、シュプレヒコールおよび拍手を主体とする行動に終始し、せいぜいスピーカーを扉に接近したに止まり、その間管理職員である太田庶務部副部長のDスタジオへの入室を妨害することもなかつた。また、これにより原告会社は、結局スポンサーに対し五〇万円の補償をせざるを得なかつたけれども、その計算の基準が明確でなく、右損害額の妥当性については疑問が残るのみならず、右騒音混入のうち特に騒音の著しい約三分間を除けば一般的にいつてそれほど気になるほどのものではなく、右約三分間は、その騒音の程度内容からみて、管理職員(太田庶務部副部長)が組合対策のため一時放送を犠牲にしてでも証拠保全を図るため、扉を開き開放したままにしておいたことが大いに加功しているものというべきであつて、結局のところ、本件行為によつて放送に与えた影響、従つて原告会社の損失は軽微なものと認められる。他方、本件行動は、争議行為の派生的な一環として行なわれれたものであり、その直接の目的としたところは、管理職員が放送業務を強行することによつて参加人組合の行なうストライキの効果が減殺されることを防止するため、管理職員による放送に抗議しその続行を断念させるにあつたもので、その目的は正当なものというべきであり、また、本件行動は、参加人組合において予め計画されたものではなく、前述したとおり組合員らのピケッテイングによつてDスタジオ副調整業務が不能となつたため、管理職員が急遽隣のCスタジオからカメラ一台を、Dスタジオに搬入し、これを使用することにより放送を強行しようとするのを目撃して、突発的に決定し行なわれたものである。もつとも平素放送業務に従事しその特性を十分知つている組合員らの行為としては、いささか思慮に欠けた行動といわざるを得ないけれども、前述したとおり、原告会社が従来から管理職員を増加して参加人組合のストライキの効果を減殺せしめてきた経緯を考慮に入れれば、これら管理職員による代替就労によりストライキの効果が失われようとしているのを目前にしたため、これに対抗して突発的に行なつた行為として、宥恕すべき点もあるといわねばならない。これらの諸点を考慮すれば、本件行為は正当な争議行為の範囲を逸脱したものではあるが、その違法性の程度はそれほど高度であるということはできない。
なお、右行為について参加人石浜らはその現場におらず具体的な指示を与えていたとはいえないけれども、前記認定の事情からすれば、参加人石浜、同八木は右行為をすることの指示を与えており、その余の参加人らも多少なりとも右行為に加担し、または少くとも現実に右行為を阻止し得る立場にあつたものと認めるのが相当であるから、本件抗議行動は争議中の組合員らのいわゆるはね上り行動と認めざるを得ないとし、これをもつて組合三役の解雇理由とすることは首肯し難いとする被告の判断は失当といわねばならない。
原告会社は、本件行為も放送そのものを阻止することを目的としたものであると主張するが、組合員らの本件行為はDスタジオの西側出入口扉の外側におけるシュプレヒコール(その内容は専ら団体交渉の開催を要求していたものである。)、労働歌の高唱、拍手などの範囲に止まるものであつて、右扉はカメラケーブルがはさまつていたので密閉できず、これを押し開けようとすれば容易に開けられたにもかかわらずその様な行為に出なかつたこと、また、Dスタジオ内に乱入して放送を妨害しようとしたこともなく、太田庶務部副部長が写真撮影のため内側から扉を開いた際容易に室内に立入ることができたと思えるにもかかわらずそのような行為に出ていないこと、さらにはDスタジオの扉を押し開いてスタジオ内に入りカメラケーブルをはずし電源を切る等の方法により確実かつ容易に放送を阻止できたにもかかわらずこのような行為に出ることもなく、約六分後には組合員の自発的意思により本件行為を中止してその場から立去つており、管理者側も本件行為により放送業務を妨害される結果になつたとはいえ、放送を最後まで遂行できたこと等を考慮すると、原告会社の主張は相当でなく、前述したとおり、本件行動の目的は正当なものであつたというべきである。
3 総務局立入りについて(解雇理由の3)
参加人石浜らの本件総務局内への立入りは、休憩時間中に原告会社の役員に対し、争議行為に警察官を介入させたことに対し抗議をするとともに、昭和四〇年春季闘争の早期解決を求めるために行なわれたものであるが、その態様をみるに、休憩時間中とはいえ突然原告会社の職制の制止を無視して数十名の組合員らとともに立入つた行為は、原告会社の主張する如く乱入と評価し得るものである。しかしながら、参加人石浜らの立入りは、右の目的のもとに行なわれたものであるから、それ自体何ら不当ということはできない。また、参加人石浜らの行為にやや不穏当な点があつたとしても、原告会社が、特段の理由を告げることもなく、一方的にこれを阻止し、不当であるから直ちに退室すべき旨要求したことは、いささか頑なな態度であつたといわなければならない。さらに、参加人石浜が携帯マイクを使用して抗議文を読みあげたことは、役員にこれを手渡すための面会をも阻止されたため止むを得ずなされた行為であつたというべく、同室内が喧騒状態になつたのは、原告会社が組合員らの役員に対する抗議を理由を告げることもしないまま一方的に阻止して退去を命じ、そのうえ事前に別室に待機させていた警察官を直ちに導入したことに対して組合員らが抗議を行なうなどしたためであり、組合員らが同室にいたのも全面ストライキ中であつて休憩時間中の約四〇分間であり、抗議集会を行なつたとか職場占拠をしたものであるともいえず、またこれにより原告会社の業務に大きな影響を与えたことを認めるに足りる証拠はない。従つて、参加人石浜らの本件行為は、争議行為の正当性の範囲を逸脱したということはできない。
4 昭和四〇年七月三〇日以降のストライキ(目的・根拠の不明確なストライキ)について(解雇理由の4)
参加人組合の本件ストライキの主たる目的は、昭和四〇年の春季闘争の妥結に際し原告会社と参加人組合との間に右闘争につき責任不問責協定が成立せず、原告会社が七月二三日に懲罰委員会を設置し、右闘争中の争議行為に関して組合幹部に対する責任を追及することが予想されたので、右春季闘争において確立されたストライキ権に基づき、これを阻止することにあつたものであり、従つて、参加人組合としてはその組織防衛上必要なストライキであつたというべく、その目的は正当であつたといわなければならない。また、<証拠>によれば、右春季闘争中に発生した「ママの育児日記」放送業務妨害事件に関する捜査機関の捜査が開始されていて、原告会社の一部職制らが勤務中の組合員らに対し捜査機関の任意捜査に協力するよう勧告していたことが認められ、これに反する証拠はないのであるから、以上の諸点を考慮に入れれば、参加人組合が本件ストライキの附随的目的として捜査機関の捜査に協力する原告会社に抗議することを掲げていたとしても、あながち不当であるということはできない。そして、もともとストライキを行なうに際し、その目的および根拠を明示する義務はないのであるから、参加人組合が右のストライキを行なうにあたりその目的・根拠を明示しなかつたからといつて本件ストライキが違法となるものではないというべきである。従つて、本件ストライキの目的は正当であり、その手続に何らの瑕疵も存しないから、正当なストライキであるというべきである。
なお、原告会社は、本件解雇後昭和四〇年八月一三日に至るまでの間のストライキについてもこれを本件解雇事由であるとしているが、右ストライキがそれ以前の決定に基づき自動的に行なわれた等特段の事情が存在することについて立証がない以上、右ストライキを本件解雇事由に加えることの不合理であることは被告の判断するとおりである。
5 スポンサー招待ゴルフ大会でのビラ配布について(解雇理由の5)
参加人組合が本件行動に出でざるを得なかつたのは、原告会社が参加人組合の要求に対し、いわゆる一発回答であるとして自己の主張を譲らず、そのため本件ビラ配布当時の両者の団体交渉は全くこう着状態となつており、参加人組合としてはこのような状況を打開し争議の早期解決を図るべく経営の最高責任者である社長の団体交渉への出席を強く要求していたのであるが、原告会社は、この要求を容れようとせず、このようなことから参加人組合は、右一発回答およびその後の原告会社の態度を不満とし、たまたま本件スポンサー招待ゴルフ大会が行なわれるのを機会に、ゴルフ大会に出席している社長に直接抗議し、スポンサーに争議の実情を訴えて参加人組合の立場を理解してもらおうとしたためであつて、ビラの内容も概ね右目的に沿つたものと認められ、また、その配布方法も前記認定の程度にとどまるものであるから、本件ビラ配布は相当な組合活動であるというべきである。もつとも、<証拠>によれば、本件スポンサー招待ゴルフ大会は、原告会社の営業政策上行なわれていたことであり、本件ビラ配布により招待側のスポーツ部長らが体裁の悪い思いをし、招待客の一部から非難めいた言葉が出てこれに対し右スポーツ部長らが陳謝したことが認められるけれども、これらの諸点を考慮に入れても前記判断を左右することにはならない。
6 鉄扉乱打について(解雇理由の6)
参加人宇崎らは、集会禁止場所になつていた玄関ロビーにおいて集会を開催し、再三に亘る原告会社の制止を無視して集会を続行し、これが中止を求める処置としての音楽に憤慨して約一五分間に亘り鉄扉を乱打し原告会社の業務を妨害したものであるが、集会を玄関ロビーで開催したのは、当日玄関前において集会をして組合員らに今後の闘争方針等を伝達する予定になつていたところ、たまたま雷雨に会い右集会を行なうことができなくなつたので、止むを得ず集会禁止となつていた玄関ロビーに退避して行なわざるを得なくなつたためであり、参加人宇崎らの右鉄扉乱打は、原告会社が音楽を高音で流しそこにいたたまれないようにしたためこれに憤慨したことによるものであつて、原告会社の処置にもいささか性急で挑撥的な面が窺われること、当時千里丘スタジオの全面ストライキが実施されていたこと、原告会社も右の如く音楽を高音で流したりしているので参加人宇崎らの右鉄扉乱打が業務妨害の唯一の原因とも思われないこと等の諸事情を総合すれば、参加人宇崎らの本件鉄扉乱打にいささか穏当さを欠く面のあることは否定し得ないところであるが、他面無理からぬ点もあるというべきであり、これを全体としてみれば正当な争議行為の範囲を逸脱した違法行為であるということはできない。
7 ビラ等の貼付について(解雇理由の7)
参加人組合がした本件ビラ等の貼付行為は、春季闘争の早期解決を求めるためであつたけれども、その枚数、貼付場所、貼付方法からみて原告会社の建物の体裁、美観を毀損したものといわなければならず、従つて、争議行為としての正当性の範囲を逸脱した違法な行為であるといわなければならない。
なお、右ビラのうち職制部長らを動物になぞらえ個人を中傷するものもあつたが、それは全体としてみれば一部に過ぎずその大部分は参加人組合の要求や春季闘争の早期解決を求めるものであつたこと、当初参加人組合執行部がビラの貼付につき建物の損傷をさけるためガラス等の部分にセロテープ等で貼り、ビラの内容についても個人を中傷するようなものを禁ずるなどの指示を与えていたこと等に鑑みれば、被告の判断するとおり、本件ビラ等の貼付行為をもつて参加人組合の一貫した加害意図のもとに企画・実行された行為であるということはできない。
8 予告のないストライキの実施について(解雇理由の8および10)
そもそもストライキの認められた制度目的に鑑みれば、ストライキの事前通告に関する労働協約等が存するならば格別、そうでない以上、ストライキの事前通告をしなければならないというものでもなく、これをしなかつたからといつて直ちにストライキが違法になるものではないといわなければならない。このことは、原告会社が放送事業という特殊の業務を行ない、公共性を有することを考慮に入れたとしても同様である。
本件についてみれば、ストライキの事前通告に関する労働協約は存しない。尤も、<証拠>によれば、原告会社にあつては、従前から慣行としてストライキの事前通告がなされていたことを認めることができ、これに反する証拠はないが、そもそも争議予告の慣行は、相手方に争議に対処する余裕を与えようというに止まり争議権の行使自体を制限するものではないと解するのが相当であるから、これに違反する争議行為といえども特に信義に反し争議権の濫用にわたるようなことのない限り直ちに違法となるものではないというべきである。<証拠>によれば、本件ストライキの通告が遅れたのは、参加人組合の手違いに基因するものであることが認められ、これに反する証拠はないのであつて、右の意味における信義に反し争議権の濫用にわたるということはできない。従つて、本件ストライキが正当な組合活動の範囲を逸脱したものということはできない。
9 錠前取付工事の妨害について(解雇理由の9)
参加人組合がした本件錠前取付工事に対するピケッテイングは、相当長時間に亘り、また、原告会社の説得を無視して続けられ、訴外大平産業の作業員の工事をも阻止している点において、やや不穏当であるとの非難は免れないというべきである。しかしながら、原告会社の右工事は、保安上等の必要に基づくものであつたとはいえ、右錠前を取付けようとしていた扉を入つた廊下が、折から夜を徹して前記毎日マラソン放送中継車に対するピケッテイングを行なつていた組合員らの一拠点であつたことは前記のとおりであり、<証拠>によると、右扉に施錠すると建物の構造上スタジオブロックの従業員が大回りをしなければならなくなるという不便をきたし、火災等の非常時に出口がなくなること、右扉に施錠をしたのは参加人組合の争議行為のもつともはげしかつた昭和四〇年五月八日から同月二七日までの間であり、その後オンエアー中は開放されていることが認められ、<証拠判断省略>。また原告会社が早急に本件工事をしなければならないことを首肯するに足りる証拠もない。そうすると、原告会社の右錠前取付目的は、当時参加人組合が行なつていた毎日マラソン放送中継車に対するピケッテイングなどの争議行為に対処して組合員の連絡、通行を阻止し、さらに事後の参加人組合のピケッテイング、ストライキなどの争議行為を予想しこれを予め阻止するための対策の一環としてなされたものであることは容易に推認されるところである。また、右工事に対するピケッテイングの際組合員らが暴力行為に出ていないうえ、右組合員らに右工事を徹底的に阻止する意図のあつたことも窺われず、参加人組合は、警察官の要請により右ピケッテイングを解き右工事の施工を認めていることなどの諸点を総合考慮すれば、参加人石浜らの本件ピケッテイングをもつて正当な組合活動の範囲を逸脱したものということはできない。
九不当労働行為の成否について
参加人石浜らに対する本件解雇理由となつている行為は、参加人組合の昭和四〇年春季闘争中における組合活動、および、右春季闘争における組合活動に関して参加人組合の幹部に対する責任の追及がなされるのを阻止するために行なわれた右春季闘争終了直後の組合活動であり、前述したとおり、これらのうち違法行為であると判断されるのは、毎日マラソン放送中継車に対するピケッテイング(解雇理由の1)、「ママの育児日記」放送に対する雑音混入行為(解雇理由の2)、および、ビラ等の貼付行為(解雇の理由7)の三点についてであるが、右各行為については、参加人組合の三役であつた参加人石浜らがその責任を追及されるのは止むを得ないとしても、前項において述べたとおり、右各行為についての違法性はそれほど高度であるとはいえないのであるから、原告会社がした参加人石浜、同宇崎に対する各懲戒解雇、参加人船尾、同八木に対する各諭旨解雇という処分は、いずれも過重な処分であつたといわざるを得ない。
翻つて、原告会社と参加人組合との関係をみるに、昭和四〇年春季闘争に至る迄の労使関係は、前述したところから明らかなとおり、総じていうならば、昭和三五年四月に海野光雄が参加人組合の執行委員長に選任されて以降は、それまでの労使関係とは大きく異なるようになり、毎年の春季闘争および年末闘争において大きな争議行為が行なわれる等常時対立抗争関係にあつたとみることができる。そして、その間における原告会社の参加人組合に対する攻撃とみられるものとしては、①非組合員としての管理職員の必要以上の増員とこれによるストライキの際の代置就労によるストライキの効果の減殺、②団体交渉拒否、⑧参加人組合の活動のための会社施設の利用拒否、④組合費等のチェックオフの一方的廃止、⑤一部職制による保安員に対する参加人組合からの脱退示唆等を挙げることができる。次に、昭和四〇年春季闘争についてみるに、原告会社は、四月七日に回答をしたが、これは一発回答であるとして譲らず、あとは参加人組合がこれを受諾するか否かだけであるという態度をとり続け、翌月の中旬ごろまで両者は全く膠着状態となり、このような状況から参加人組合としては闘争をエスカレートさせて行かざるを得なかつたのであるが、この間本件で問題となつている解雇事由とされている各行為が発生した(但し、解雇理由の4を除く。)ものであつて、右解雇事由の当否については前項で述べたところであるが、原告会社の参加人組合に対する態度には、参加人組合の申入れた団体交渉を争議中であること等の理由で拒否し、他方において管理職員によつて放送業務を強行したりする等参加人組合を無視する面のあつたことを否定し得ない。そして、原告会社は、右春季闘争終了直後の参加人組合の役員改選の直前、既にいわゆる組合三役に立候補していた参加人石浜ら四名を一括して前述した如き過重な処分に付し、参加人組合にとつて致命的ともいえる打撃を与える処置をもつてのぞんだばかりでなく、本件解雇後参加人石浜らが組合三役に再選されているにもかかわらず社内屋への立入りを禁止する処置に出で、石浜委員長名義の団体交渉開催要求等の組合文書については同人が本件解雇により組合員資格を喪失していることを口実にその受領を一切拒否し、参加人組合の存在を否定するかの如き態度をとり続け、組合活動に多大な不便を与えているということができる。
以上の諸点、ならびに、参加人石浜が昭和三八年七月から参加人組合の執行委員長として、参加人宇崎が同年八月から参加人組合書記長として、参加人船尾、同八木が昭和三九年四月から参加人組合副執行委員長として、いずれも活発な組合活動を指導してきたこと等を総合勘案すれば、参加人石浜らに対する本件解雇は、参加人組合の活発な組合活動およびこれの中心的存在となつていた参加人石浜ら組合三役を嫌悪するの余り、参加人組合役員の改選を目前にして、かねてより活発な組合活動をし、ことに昭和四〇年春季闘争の中心的指導者であつた参加人石浜らを企業から排除し、参加人組合の活動を弱体化させ、将来の闘争力を減殺するため、右春季闘争中に参加人組合の活動に一部行き過ぎの行為があつたことに藉口してなされたものであると認めるのが相当である。
原告会社は、参加人石浜らに対する本件解雇は相当な処分であり、従つて、不当労働行為を論じる余地のないものである旨主張するが、本件処分が不当であること前述したとおりであり、また、解雇理由が存するからといつて不当労働行為を論じる余地がないということもできない。
原告会社のこの点に関する主張は採用しない。
一〇結論
従つて、参加人石浜らに対する本件解雇は、参加人組合の三役を一挙に企業外に排除し、参加人組合の弱体化を意図したもので、不当労働行為に該当するとして初審命令を維持した再審査命令は、正当であり、これを取消すべき事由は存しないといわなければならない。
よつて、原告会社の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(大西勝也 林豊 中田昭孝)